里見岸雄における八紘一宇

「国体文化」平成28年1月号「再考・八紘一宇──大東亜戦争と日蓮主義者」より

里見日本文化学研究所所長・亜細亜大学非常勤講師 金子宗徳

 「八紘一宇」論の現状
ただいま御紹介に与りました里見日本文化学研究所所長の金子です。

本年の三月十六日に行われた参議院予算委員会の席上、三原じゅん子議員が「グローバル資本主義の光と影の影の部分にもう私たちは目を背け続けるのはできない」という認識を示した上で、「日本が建国以来大切にしてきた価値観」である「八紘一宇」の理念に「現在のグローバル資本主義の中で日本がどう立ち振る舞うべきかというのが示されている」という趣旨の発言をしました。
この発言を契機として「八紘一宇」に関する議論が起ったことは、皆さんの記憶に新しいと思います。左派メディアは「侵略正当化の標語」、「戦前回帰の発想」といったレッテル貼りを行い、建設的な議論を封鎖しようとしました。こうした動きに対し、当研究所では機関誌『国体文化』の五月号で「八紘一宇を考える」という特集を組み、田中智學居士によって造語された「八紘一宇」の理念が門流により継承され、思想として深められていった過程を紹介しました。
その後、オウム真理教を礼賛したことでも知られる島田裕巳という宗教学者が『八紘一宇』という新書を幻冬舎から出版しました。タイトルは御立派ですが、「八紘一宇」の理念に関する実証研究ではなく、SGI(創価学会インターナショナル)の運動を「八紘一宇」の現代版として捉えるなど、時局に便乗して自分の思い付きを垂れ流す駄本としか云いようがありません。インターネットの世界は、さらに酷い。法華哲学やファシズムについて実のところ何も知らぬ手合いが、智學を「法華ファシズムの代表的人物」だなどと決め付けています。

こういった誤解を一つ一つ破折していくことも大事でしょうが、私としては、この「八紘一宇」という理念を改めて検討し、本来は如何なるものであったのかというところから出発したい。そうすれば、そういう事実に基づかぬ、ためにする議論は雲散霧消していくはずだと思うからです。そこで、学術研究大会のテーマを『再考・八紘一宇』とさせて頂きました。

 「八紘一宇」論の由来
私からは、主として里見岸雄博士の「八紘一宇」に関する議論を御紹介させて頂きたいと思いますけれども、議論全体の前提と致しまして、この「八紘一宇」という言葉が如何なる経緯を辿って生まれたのかというところから話を始めたいと思っておるわけです。
まず、最初に「八紘一宇」の用例を御紹介したいと存じます。「八紘一宇」という語は詔勅に出てきません。ただ、類似した表現としては昭和十五年九月二十七日に発せられました日独伊三国同盟締結の詔書に「大義ヲ八紘ニ宣揚シ坤輿ヲ一宇タラシムルハ実ニ皇祖皇宗ノ大訓ニシテ朕カ夙夜眷々措カサル所ナリ」いう表現が見られます。「坤輿」とは地球のことです。すなわち、三国同盟を結ぶにあたり、「我が国の理想は大義を八紘に示し、そして地球を一つにすることである」と明言なさっているのです。
その二カ月ほど前にあたる同年七月二十六日、第二次近衛文麿内閣が発した『基本国策要綱』を見ますと、前文に「世界ハ今ヤ歴史的一大転機ニ際会シ数個ノ国家群ノ生成発展ヲ基調トスル新ナル政治経済文化ノ創成ヲ見ントシ、皇国亦有史以来ノ大試錬ニ直面ス、コノ秋ニ当リ真ニ肇国ノ大精神ニ基ク皇国ノ国是ヲ完遂セントセハ右世界史的発展ノ必然的動向ヲ把握シテ庶政百般ニ亘リ速ニ根本的刷新ヲ加ヘ万難ヲ排シテ国防国家体制ノ完成ニ邁進スルコトヲ以テ刻下喫緊ノ要務トス、依ツテ基本国策ノ大綱ヲ策定スルコト左ノ如シ」と記されています。「国家群ノ生成発展」すなわちブロック化という国際秩序の変化を背景として、「真ニ肇国ノ大精神ニ基ク皇国ノ国是ヲ完遂」するため国策を定めねばならない。
そこで問題となるのは、何を「国是」とすべきかです。根本方針を見ますと、「皇国ノ国是ハ八紘ヲ一宇トスル肇国ノ大精神ニ基キ世界平和ノ確立ヲ招来スルコトヲ以テ根本トシ」と冒頭に記されています。
これらは公的な文書における用例ですが、昭和十二年十二月に内閣情報部が歌詞を公募した『愛国行進曲』にも「往け八紘を宇となし、四海の人を導きて、正しき平和うち建てむ」という表現がございます。この歌詞を作ったのは、職業詩人ではなく、現在の鳥取県境港市で印刷業を営んでいた森川幸雄と云う人です。
また、昭和十一年に発生した二・二六事件における蹶起趣意書にも「謹んで惟るに我が神洲たる所以は万世一系たる天皇陛下御統帥の下に挙国一体生成化育を遂げ遂に八紘一宇を完うするの国体に存す」という一節があります。
このように見て参りますと、昭和十年代の初めの時点で「八紘一宇」といふ語が国民各層に浸透していたことが分かります。

(続く見出しのみ公開・全10頁)
「淮南子」の記述
 田中智學が目指したもの
 里見岸雄の「八紘一宇」論
 世界史的使命としての「八紘一宇」論

「国体文化」平成28年1月号4~13頁所収)

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