雄大なる建国の理想・理念を説き続けよ

日本国体学会理事長 河本學嗣郎

安倍政権は、「日本を取り戻す」との大旆を掲げて四年目に入つた。昨年、終戦七十年に際し発表した首相談話で、「いかなる恣意にも左右されない、自由で、公正で開かれた国際経済システムを発展させ、途上国支援を強化し、世界の更なる繁栄を牽引」してゆくと述べ、中国の膨張、野望を意識しつつ、日本国憲法の解釈範囲内で可能とする安全保障関連法の成立を実現させた。自衛隊が活動できる領域の拡大を確実のものとし、日本外交の積極的役割、即ち友好国及び途上国への物心両面の支援を、領域警備とセットにして、世界的平和実現に役立て、「世界の更なる繁栄を牽引」させたいとする強い意志を示した。

しかし、果して「国際経済システムを発展させ」ることによつて「世界の更なる繁栄を牽引」することが出来るのか。勿論、安倍首相は、前段に「いかなる恣意にも左右されない、自由で、公正で開かれた」ものであることを強調してはゐる。しかし、『我が国は、自由、民主主義、人権といつた基本的価値を揺るぎないものとして堅持し、その価値を共有する国々と手を携へて「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄に貢献する』と述べてゐるのだ。

首相は、何の躊躇ひもなく「自由、民主主義、人権」を、我国の基本的価値と断定し、「その価値を共有する国々と手を携えて」等と言ふが、甚だ不可解な言ではないか。今の世界秩序、また経済システムとは、自由、民主主義、人権といふ不完全かつ偽善に充ち、かつ傲慢なる原理によつて支配、構築されてゐる秩序ではないのか。このことを一切顧慮することなく、「日本を取り戻す」ことなど出来る話しではない。

安倍首相が真実、今の世界秩序を形成してゐる基本的価値によつて、世界の平和、繁栄が実現出来ると考へ、世界を牽引できると信じてゐるとするなら、これは明かに「戦後レジームからの脱却」ではなく、体制の維持を目指すものであつて、共存共栄の発展はおろか、差別と対立、闘争のジレンマを、更に、自ら拡大生産していくといふ宣言以外の何物でもない。

安倍首相は、昨年末、保守系超党派議員連盟が開いた自民党立党六十年の研修会で、「憲法改正をはじめ、占領時代に作られたさまざまな仕組みを変えていく」と発言し、日本国憲法改正に積極的意思を示したとのことだが、仕組みなどといふ些末なものではなく、汚辱と欺瞞に満ちた日本国憲法制定の目的(日本永遠弱体化)を破棄し、人類の基本的原理と称する自由、民主主義、人権思想に代はる指導原理を注入しなければならないのである。それが「道義」といふことであらう。その「道義」「道の国」日本を復活せしめることこそ、「日本を取り戻す」また、「戦後レジームからの脱却」における核心部分ではないか。

憲法改正の本道とは、「道義国家」日本の復活が焦点であり、急所でなくてはならない。日本には建国以来連綿と継承されてきた理念、理想がある。明治維新の大業は、高らかに「神武創業ノ始ニ原ク」「創業ノ古ニ基キ」との雄大、厳粛なる理想と理念を掲げ実現した。「八紘一宇」とはまさに雄大にして厳粛なる日本人の理想実現の標語だ。

三年後の平成三十年は、明治維新百五十年である、まさに好機だ。安倍首相は、明治神宮と靖国神社に毎日、又は毎月必ず参拝する覚悟を定めてはだうか。そして、本来の「日本を取り戻す」こととは何であるのか、深刻に熟慮を廻らし、明治大帝の示された国是に思ひを馳せ、日本の理想、理念を語る決断をするべきだ。そして自ら体得した、日本の理念、理想を全力で説き続けるのだ。さすれば、今、民間から盛り上がり、展開されてゐる「明治の日」制定が実現する。明治の日が制定されれば、自ら、憲法改正に真の目的が示され、国是である理念、理想が確立される。憲法改正の魂魄が示され、国民に丁寧に語り続けられるならば、国体精神が、国民に宿り、且つ伸張されてゆく。世界における日本の役割も自然に明確にされてゆくのである。これが誠の、そして本来の「日本を取り戻す」ことの本義であつて、姑息な改正などは諦め、純正なる憲法改正の実現に邁進すべきである。

さらに言へば、迫りくる皇統の危機に対する意識の薄弱さは、目を覆うばかりである。女性宮家の創設を速やかに断行し、国体国家の究極的安定に意を注ぐべきだ。皇統維持の本質とは、万世一系の天皇の本質たる「神聖」を継承するにある。この神聖継承こそ、日本の「道義」の本体である。神聖の保持、永続は、日本国そのものの「道義」と密接不可分である。このことに思ひ至らず、皇統の保持を疎かにしてゐる安倍首相は、真に「日本国を取り戻す」覚悟があるのか、甚だ疑はしい。

首相は、毎年新年には伊勢神宮を参拝し、国政を担う覚悟と誓ひを新たにしてゐる。日本民族の太祖である天照大神の御前に、まことの「日本を取り戻す」その覚悟と誓ひを奏し、以て新たなる新年の門出としてもらゐたいものである。

平成二十八年、皇紀二千六百七十六年の新春を寿ぎ、聖寿の万歳、宝祚の無窮を祈念し奉り、同志、道友と共に国体精神発揚の責務を本年も果たして参りたい。

尚、本年は里見岸雄博士が、昭和十一年二月十一日、京都において日本国体学会を創設して満八十年にあたる節目の年です。国体学統の継承者、里見日本文化学研究所、金子宗徳第三代所長を中心として、学城の護持は勿論、国体擁護、尊皇精神の恢弘に一同邁進してゆく覚悟であります。同志、道友におかれては、本年も倍旧のご協力、ご支援を賜りますようお願ひ申し上げます。

「国体文化」平成28年1月号所収)

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