「国体科学」入門篇〔2〕 天皇の6要素

里見岸雄著『新日本建設青年同盟 学習シリーズ 1 天皇とはなにか』所収

 天皇には6要素がある。尤もこれは一般に君主というものが皆形式的には具備しているところであるが、今は一般の君主論を試みるのでなく、天皇に就て論ずるのである。さて天皇に6要素がある、というのは、天皇といふものは6つの要素から成立っているという意味なのであるが、その6要素とは(1)名称、(2)地位、(3)人、(4)血統、(5)身分、(6)職能である。つまり、我々が天皇と曰う場合には、この6要素の一つが欠けても天皇にはならないのであって、天皇とはこの6つの要素の結晶体なのである。

 まず、天皇といふ存在は、天皇といふ名称を有している。日本では、外国の君主が一般に国王とか皇帝とか称するのと異り、天皇という特別の称呼を用いて居る。支那の歴史で見ると高宗が唯一人「天皇」の名称を用いた例がないではないが、それは唯一の例外であった。日本では、国家が文字を以て公に名称を制定して以来、「天皇」というのを正称としている。次には地位である。即ち天皇という地位が定まっている。有史以来今日に到る迄の長い間、どんなに国が乱れた時でも、また、日本が全土的に統一されなかった時でも、国の最高の位地、又、国の中心の位地としての天皇位、即ち皇位といふものが確立している。

 ところで、皇位といふ地位は、人を待って充足されるのであって、位地があっても人がその地位にいなければ意味を成さない。皇位という地位は一国統一の地位であって国家の安危と極めて重大な関係を有するものであるから、法理上は一日と錐も空位である事を許されないのであって、実際的には皇位に即く人が相当長い間確定しなかったような歴史的事実も若干あるが、それでも法理の点から言うと、皇位に即く人が確定するとその時からさかのぼって実際には空位であった間も新しく皇位に即いた人によって地位が充足されていたものと解するのである。

 かように、皇位には必ずその位に即いている人があるのだが、この人はどうしてきめられるか、それは血統に基いて定まるのである。つまり皇位に即く人の血統が定まっていて、その血統の人でなければ、どんなに金持でも学者でも黍でも皇位に即くことは出来ないのである。

 この血統を、皇統というのであって、皇位とは歴史的に言えば神武天皇の御血統、一層さかのぼれば神話的、信仰的に、皇祖と仰がれている天照大神の御血統という信念及び事実を指すのである。誰れでも天皇と名乗れば天皇になれるのではない。又、個人的実力徳望で天皇になれるものでもない。必ず皇統の生れでなければならないというのが有史以来不動の鉄則なのである。

 かくて皇統の出自で皇位に登り天皇という称号を有する人は、その身分に於て、一般国民や貴族などと異るところの至高の分限と栄与とを有する者とされる。即ち、君主たる身分あるものとされるのである。

 最後に職能である。ここに職能というのは、天皇の天職としての機能〔はらき、作用〕という意味であるが、中には「幼童を国家の象徴とするのは無意味だ」などという者があるが、それは、天皇の職能を個人的能力とばかり解する短見であって、幼稚な思想といわねばならぬ。たとえ幼童であっても皇統の出自で皇位に即かれた人即ち天皇には、他の如何なる有能の個人をもってきても発揮することの出来ない職能が厳存している。

 それは、究極に於て人心を統一し社会を安定させる自然的作用であって、これを正しい意味での統治〔古語における「統べ治らす」、統とは統合、治とはおのずからにおさまること〕というのである。統治と統治権即ち統治の権力とを混同してはならない。この事は後に又詳しく述べよう。

さとみ きしお(日本国体学会総裁・法学博士)

SNSでシェアする

公式アカウントをフォローする